神山健治監督作品『009 RE:CYBORG』が目指す リ・アニメーション
はじめに
製作発表イベントで『009 RE:CYBORG』の4分30秒のPVを公開してから、沢山の驚きの声とご質問を頂きました。
- 本当に、一切手描きを使っていないのか?
- 3DCGIアニメーションなのに、何故手描きの画に見えるのか?
- 海外の3DCGIアニメーションと違い、何故日本的な動きを実現しているのか?
今回は、神山健治監督とサンジゲンのスタッフが『009 RE:CYBORG』で目指す「リ・アニメーション」表現が、どのように生まれているのか、ご紹介します。
絵コンテ
すべてのアニメーションは、脚本をもとに、監督とアニメーターにより描かれる「絵コンテ」から生まれます。
映画『009 RE:CYBORG』では、神山健治監督の脚本をもとに、青木康浩さん、林祐一郎さんが、監督と何度も打ち合わせを重ね、絵コンテを描き上げます。
絵コンテをもとに、監督とCGIディレクターの鈴木大介さん、そしてアニメーターが、各カット内の演出意図や演技プランなどを共有、映像化のため動きがつけられます。
今回は、映画『009 RE:CYBORG』製作発表PVにも使われている、サンジゲンのトップアニメーター、植高正典さん担当のフランソワーズ(003)のカットが、どのように生まれたのか、植高さんのアニメーション工程を再現しながら見てみましょう。
レイアウト
神山監督と鈴木さんの指示のもと、植高さんは「レイアウト」を作成します。
カット内の舞台(背景)に、3Dオブジェクトを配置して、3Dのキャラクターを配置します。
神山監督と鈴木さんが、構図や演技意図をチェック。植高さんにイメージを伝え、修正を重ねます。
フランソワーズが飛び降りるカットは、カメラワークがあるため、舞台設定は縦方向に長い「大判」カットとして構成されます。
レイアウトが完成すると、背景美術監督の竹田悠介さん、Bambooの皆さんが、舞台(背景)を描いてゆきます。
コンピューター上で、一筆一筆、緻密な背景美術を描いてゆく緻密な作業は、3DCGアニメーションでも同様です。
竹田さんとBambooスタッフの力なくして、映画『009 RE:CYBORG』における「世界」は生まれません。
アニマティクス
次に植高さんは、コンピューター内の3D空間上で、実際にフランソワーズを動かして、動きをつける工程に入ります。この段階でも、神山監督と鈴木さんのチェックを経て、少しずつ、イメージに近い動きにを固めていきます。
多くの3Dアニメーションは「フル(1秒間に24枚の画を使用)」で作られていますが、サンジゲンのアニメーションでは異なり、我々日本人が親しんでいる「リミテッド(1秒間に平均8~12枚の画を使用)」方法で、メリハリのある日本独自のアニメーションを実現しています。この時点では、まだキャラクターは、ツルッとした3Dの質感です。
カラーアニマティクス
芝居が固まったら、コンピューター上で「セルシェーディング」という効果をかけ、ツルッと立体的だったキャラクターの、光があたっている部分や影になっている部分を明確に色分けし、線と面の色で構成されているセルアニメーションの見た目に近づけます。
この色は全て、神山監督作品を支えてきた、色彩設計の片山由美子さんと、補佐の菅原美佳さんがひとつひとつ、背景美術の色味に合わせて決めます。
しかし、まだこの段階でも、手描きのアニメーションキャラクターに見える...とは言えません。
もともと、立体で作られたキャラクターは、その正確さ故に、カメラがあおったり(下から撮影すること)すると、ほっそりとしたフランソワーズの顔が、丸くつぶれて見えてしまいます(これは、実写の女優さんも同じ事です)。
キャラクターの修正
ここが、サンジゲンが圧倒的なアドバンテージを誇る、キャラクター修正作業。
上が修正前、下が修正後です。
左上のフランソワーズは、横から見ても正確な立体ですが、カメラがあおっていると、顔の丸い、下ぶくれた表情に見てしまいます。
左下が修正後。植高さんは、大胆にフランソワーズの顔をつぶして平面化(右下)、あえて立体感をおさえてあごの稜線をのばす事により、正面から見たときにもっとも美しい輪郭になるように修正を施しているのです。
手描きのアニメーターの方々が鉛筆を使い、もっとも気持ちの良い画を探ってゆくのと同じ考え方ですね。
次は、フランソワーズが飛び降りてゆくカット。上が修正前、下が修正後です。
下のフランソワーズは、あえて下半身を大胆に膨らませ、顔を小さくする事で、手前ほど大きく、奥にいけばいくほど小さく見える遠近感を強調、よりダイナミックに、落下してゆくフランソワーズを表現しているのです。
こうして、芝居やキャラクターの造形を、よりセルアニメーションらしい、記号化されたダイナミックなものに近づけてゆく事により、3DCGIキャラクターに、命が吹き込まれます。
完成
最終的に、監督と鈴木さんのチェックを経て「OK」テイクとなったキャラクターは、竹田さん率いるBambooの皆さんの描いた緻密な背景と合成され、サンジゲンの撮影チーフ、上薗さんの手によって完成画面となります。
勿論、各工程で、プログラマーの方、舞台設定を描き起こす方々など、沢山のスタッフが、ひとつのカットを作り上げるために、膨大な時間を費やしています。
如何でしたでしょうか?
2Dのセルアニメーションの魅力は、カット毎に最も気持ちの良い画を描いてゆく点にあります。
サンジゲンのアニメーションは、3Dのキャラクターを自在に変形させ、私たちが最も気持ちが良いと感じる線や面のラインを探りながら、2Dアニメーションと見分けのつかないキャラクター表現を実現しているのです。
(文責・石井朋彦)
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- 2011年12月02日 劇場アニメーション長編『009 RE:CYBORG』中核スタッフインタビュー (CGWORLD)
- 2011年12月27日 劇場アニメーション長編『009 RE:CYBORG』PVから紐解く制作技法 (CGWORLD)